

FEATURE
高い省エネ品質が賃貸市場
の競争力に
賃貸市場においても省エネへ
の取り組みが課題となっています。


著者:生和コーポレーション編集部 監修者:生和コーポレーション編集部
当記事では、建築や都市の熱環境やエネルギーシステムに詳しい東京大学大学院の赤司泰義教授と生和コーポレーション企画商品開発部の三好義典部長に、賃貸市場における省エネ性能の動向について伺いました。
高い省エネ品質が賃貸市場の競争力に
高まる生活者の省エネ意識 住宅業界も性能の向上を推進
脱炭素社会実現のため、2022年に「改正建築物省エネ法」が公布され、2025年4月からは、新築における賃貸住宅を含むすべての住宅や非住宅の省エネ基準への適合が義務化されました。現在、省エネ性能の最終水準として掲げられているのが「ZEH(ゼッチ)」です。「断熱」「省エネ」「創エネ」により住宅の「エネルギー消費ゼロ」をめざすもので、マンションの住棟全体を対象とするZEH-Mもあります。
また、2024年には住宅や建築物の販売・賃貸で「省エネ性能ラベル」(図1)の表示が努力義務となり、生活者にも建物の省エネ品質がわかるようになりました。物価やエネルギー価格の高騰で生活者の省エネへの関心が高まるものの、図2が示すように賃貸市場では新築の購入物件と比較して、省エネ性能に対する意識はまだ低いといえます。
図1: 省エネ性能ラベル(イメージ)

図2: 物件の省エネ性能に関する意識調査
引っ越し先を探す際、物件の「省エネ性能」は意識しますか
- 1.8%
- 0.6%
- 3.7%
- 4.3%
- 1.2%
- 2.4%
- 4.5%
- とても意識する
- やや意識する
- どちらとも言えない
- あまり意識しない
- 全く意識しない
出典:3年以内に引っ越しを検討している1,000人に聞いた「物件の省エネ性能に関する意識調査」(2024年9月20日〜24日)/株式会社LIFULL調べ
しかしながら、「2025年4月の省エネ基準適合義務化などもあり、今後は確実に高まると見込んでいます」と三好部長。「当社の建物はすでに高断熱を実現しているため、省エネ性能が優れた高効率給湯器や高効率エアコン、窓のペアガラスなどの導入によって、より高い省エネ性能を発揮できます。業界の省エネ化を推進する『住宅トップランナー基準』に対応し、ZEH化にも取り組んでいます」と語ります。
図3が示すように、建築業界では2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、省エネルギー化に関する段階的なロードマップが策定されています。環境への意識がより高まる今、省エネへの取り組みは建築業界各社が主体的に進めていくべき重要な課題となっています。
図3: 2050年までのロードマップ
- 2024.4省エネ性能ラベル表示制度開始
- 省エネ性能ラベルの表示が努力義務
(新築住宅・非住宅)
-
2024.11
省エネ部位ラベル
表示制度開始
-
2025.4
省エネ基準
適合義務化
- 2030
温室効果ガス46%減
(2013年度比) - 新築される建築物について
ZEH・ZEB水準の省エネ性能を
確保
- 2050カーボンニュートラル
- 既存ストックを含めた全体平均で、
ZEH・ZEB水準の省エネ性能を確保
図3:不動産情報サイト事業者連絡協議会「建築物省エネ法に基づく 省エネ性能表示制度 事業者向け概要資料 省エネ部位ラベル解説版 第1版」(2024年11月)より作成
賃貸市場においても省エネ性能が
競争力の一つに
生和コーポレーションでは脱炭素社会実現への取り組み「e-mirai」も開始。省エネかつ快適な住環境を叶える賃貸住宅について、東京大学との共同研究が進められています。
東京大学大学院の赤司教授に、省エネ性能表示制度や共同研究についてお聞きしました。「この取り組みを有効に機能させるには、住宅オーナーの意思決定の様子を捉えることが必要で、生和コーポレーションのご協力により賃貸マンションのオーナーさまを対象とした意識調査を実施しました。そこでは、自身の賃貸マンションの省エネ性能が周辺と比較して高いのか、低いのか、どれほど差があるのか、補助金はあるのか、ないのかなどで、省エネ改修などの省エネ性能向上に対するオーナーの行動選択が異なるといった貴重な実態を把握できました」とのこと。そして、「住宅の省エネは脱炭素社会の実現に不可欠です。賃借人などは省エネ性能ラベルの表示で性能の高い住宅を選択でき、オーナーは住宅の市場競争力を高めることができます。その結果、脱炭素社会に資する建築ストックが形成されることが期待されます」と語ってくださいました。
【生和の取り組み】
新システムで住環境をコントロール
生和コーポレーションは、脱炭素社会実現に向けた取り組み「e-mirai」を展開しています。無理な節約をせずに「豊かな生活と省エネルギーを両立」する、住環境マネジメントシステム「SLIM(スリム)」を開発しました。高効率設備だけに頼らず、IoTによる環境マネジメントシステムでエネルギー使用量を削減。スマートフォンなどで室内の温度・湿度・CO2濃度が確認でき、外からエアコンなどの家電操作も可能です。
また、1台のエアコンで住戸全体の室温を一定に保つ新空調システムも開発し、実証実験を予定しています。センサーで温度やCO2濃度を感知し、自動換気によって室温が一定温度より上昇するのを防ぐなどさまざまな機能を搭載し、快適性と省エネの両立をめざします。

新システムにより、快適な室内環境を実現。

「SLIM」はスマートフォンでの操作が可能。
容積率を活かした巧みなプランニングと「入居者ファースト」で収益アップ
2023年に5階建てから13階地下1階建ての賃貸マンションに建替えられた東京都のYさま。
立地の良さに市場ニーズを叶えたプランニングとサービスで満室を維持しています。
各階に駐輪場を設置するなど
独自のプランニングが奏功
Yさまが経営する『モンサラット府中』は、2LDKが33戸、1LDKと1DKが各11戸、事務所5区画の大型賃貸マンションです。京王線・武蔵野線・南武線の3線が利用できる立地の良さから、ファミリー層から単身者まで入居が絶えず、満室状態。相続対策もあり、築38年の5階建て賃貸マンションの建替えを考えたのが3年前でした。「近隣に高層マンションが建ったことで、本来の容積率を十分に使い切れていなかったことに気づきました。そこで生和コーポレーションにもお声をかけ、建築費やプランをご検討いただきました」とYさま。「決め手は、プランニングと坪単価。要望に臨機応変に対応できる小回りの良さでした」と振り返ります。
生和コーポレーションでは、バルコニーを狭くしてその分で廊下を広くし、各階に駐輪場を設置する独創的なプランをご提案。各階に5台分の駐輪場を設けて1階の駐輪場をコンパクトにしたことで、1階の事務所スペースも十分に確保できました。また、立地エリアに少なかった2LDKを多く設けたのも、入居率を高めることに。

垂直に伸びるラインは、自転車も載せられるエレベーターホール。
凜とした外観デザインはYさまのお気に入り。

廊下には各階5台分の駐輪場を設置。廊下が広いことにより、
雨が入りにくいと好評。

屋上からの眺め。周囲に高い建物が少ないため、
抜群の眺望も『モンサラット府中』の付加価値の一つ。
要望を丁寧に実現することで
入居者の満足度を高める
『モンサラット府中』には、Yさまによるさまざまなアイデアがプランニングとして落とし込まれています。たとえば建設面では、床や壁のコンクリート厚を通常よりも厚くすることで住戸間の遮音性を高めました。各階の弱電盤に光ケーブルを引いてインターネット接続を容易にしたり、24時間のゴミ出しや置き配にも対応。こうした「入居者ファースト」の実現により、現在も高い人気を誇っています。
「生和コーポレーションは、きめ細かな相談ができるなど営業と設計・工事との連携がよく、期待以上のサポートはもちろん、設計担当による想像を上回るデザイン提案にも感謝しています」とYさまは締めくくってくださいました。

「建替えは大成功です」と語るYさま。

『モンサラット府中』に隣接したエリアに2棟目となる6階建ての『BanyanLea府中』も建設。