
民泊新法の施行で注目される住宅宿泊事業
日本を訪れる外国人観光客数が増え続けており、国が掲げる「2020年までに訪日外国人観光客4,000万人」の達成が見込まれています。これに伴って注目されているのが、インバウンド向けの宿泊施設。賃貸経営の選択肢の一つとして、宿泊施設や民泊を考える人も多いでしょう。ここでは、とりわけ話題の民泊を中心に現状を把握しておきましょう。
民泊新法が施行され 事業が本格化
2018年6月15日、「民泊新法(住宅宿泊事業法)」が施行されました。一般の住宅に宿泊できる民泊は、訪日観光客増加に伴う宿泊施設不足の解消に寄与すると期待されています。
民泊新法施行の3カ月前から住宅宿泊事業の受付けが開始されました。民泊サイトに約6万件が掲載されていましたが、2018年6月時点の届出件数は約3000件。営業日数が180日までとされたことや、自治体による営業地域の制限などが届出件数の低下につながったようです。その後認知度が高まって届出件数は増え、2019年2月15日時点で13,660件(うち事業廃止474件)に。民泊の成功例も多数報告されるようになり、宿泊日数の規定がない「特区民泊」も注目されています。
旅館業法における民泊事業の位置づけ
旅館業法では、旅館業は「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」に分かれています。
- 旅館・ホテル営業
- 施設を設け、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のもの
- 簡易宿所営業
- 宿泊する塲所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のもの
- 下宿営業
- 施設を設け、1ヶ月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業
一軒家やマンション、オフィスビルなどを活用する民泊事業は、簡易宿所営業か旅館・ホテル営業のどちらかで許可を取得する必要があります。旅館・ホテル営業は玄関帳場(フロント)の設置義務があるため、簡易宿所営業の許可を取得するのが一般的です(図1参照)。旅館・ホテル営業の基準に達しない4部屋までの施設や2段ベッドを設置している施設は簡易宿所に該当し、民宿やペンション、スポーツ合宿施設、カプセルホテルなども含まれます。簡易宿所営業の場合でも都道府県知事(政令指定都市、中核市等保健所政令市では市長、特別区では区長)の許可が必要です。

特区民泊や民泊新法で運用することも可能
簡易宿所営業の許可を取得する以外に、民泊新法(住宅宿泊事業法)や特区民泊として運用する方法もあります。民泊新法は簡易宿所営業に比べて制限や条件が緩やかですが、年間180日以内の宿泊日数が上限とされ、部屋面積に応じた宿泊人数の制限や、外国語による施設案内・交通案内などのルールが定められています(図2参照)。

国家戦略特別区域で自治体が条例を定めた地域では、旅館業法の規定が適用されない特区民泊を行うことができます。年間宿泊日数の制限がないのが民泊との最大の違いですが、以下の条件が求められるというデメリットもあります。
- 特区民泊の条件
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- 2泊3日以上の滞在が条件
- 台所や浴室などの洗面設備が必要
- 物件所有者と共同使用(ホームステイ形式)が認められない
- 床面積が25㎡以上必要
立地や建物規模によって選択する宿泊ビジネス
簡易宿所と特区民泊のメリット・デメリット
特区民泊は2泊3日以上の宿泊が条件となっているため、1泊だけの利用ができません。また、特区民泊は特区(東京圏は東京都大田区、神奈川県、千葉県成田市、千葉県千葉市)以外の地域では活用できません。一方、簡易宿所営業の場合、用途地域さえクリアしていればどこでも許可を受けられます。
とはいえ、簡易宿所営業の許可取得は特区民泊に比べて難易度が高いのも事実。特区内に施設がある場合は、許認可の手間やコストも考慮した上で、どちらにするかを判断する必要があります(図2参照)。
この1年で特区民泊が4倍(約1500室)に増えたのが、全域が特区の大阪市。全国の特区民泊の約9割が大阪に集中しています。そんな大阪では特区民泊専用のマンションの建設も行われており、ムスリムに対応した祈祷室まで備えているところもあるそうです。
規模や立地で考える賃貸経営の形態
賃貸経営を宿泊施設まで広げて考えた場合、ホテルや民泊のほか、マンスリーマンションという形態も選択肢に入ってきます。都市部主要駅の近くは利便性が求められるホテルの適地と言えますし、交通の便が良くなくても観光地が近ければ簡易宿所や民泊がビジネスとして成立する確率が高くなるでしょう。
ホテルと賃貸マンション両方のメリットを併せもつマンスリーマンションは長期滞在が前提のため、利便性よりも設備や周辺環境が重視される傾向があります。マンスリーと民泊のハイブリッド運営という成功例も報告されています。
マンションへの転用が可能な簡易宿所
東京オリンピックに向けて、インバウンド向けの宿泊施設の需要が高まることは確実ですが、ブームが過ぎた後どうなるかは未知数です。今、宿泊施設を建設するなら、市場が変化した場合にマンションへの転用が可能な簡易宿所を選択するのがベターかもしれません。最近の例では、民泊としても利用しやすいようにあらかじめ設計された賃貸マンションも登場しています。
