生産緑地の“2022年問題”を考える

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SPECIAL FEATURE
土地活用や売却を検討するか? それとも農業を続けるべきか?

生産緑地の“2022年問題”を考える

それぞれのメリット・デメリットを理解した上で、そろそろ準備を始めたい

なぜ今、生産緑地が問題になっているのか

税法上の優遇がある生産緑地

「生産緑地」と書かれた看板を住宅地で見かけたことのある人は多いことでしょう。生産緑地とは、一言で言うと「大都市圏の市街化区域内の農地」のこと。地主は農業を営むことが義務付けられる代わりに、固定資産税や相続税において恩恵を受けています。

生産緑地は、1992年に施行された改正生産緑地法によって指定されたもので、最低30年間は農地・緑地を維持することが指定の条件となっています。生産緑地の9割は1991年4月の法改正から1992年1月の施行までに指定を受けており、指定解除が可能になるのは2022年からということになります。

指定解除された生産緑地の所有者の中には、農地としての利用をやめて売却を考える人も出てくるはずです。すると住宅地が増えることになり、住宅市場にも影響が出ると予想されます。これが、生産緑地の2022年問題とされているものです。

三大都市圏に集中する生産緑地

生産緑地は東京、名古屋、大阪の三大都市圏を中心に1万3,000ヘクタール(東京ドーム2,760個分)以上あるとされています。このうち東京都が3,296ヘクタール、埼玉県が1,793ヘクタール、神奈川県が1,380ヘクタール、千葉県が1,175ヘクタールとなっており、1都3県だけで全体の約57%を占めています(図1参照)。これらのうち、どれぐらいが売却されるかによって、住宅市場への影響も変わってきます。

なお東京都の場合、都区部の生産緑地が400ヘクタールあまりなのに対し、都区部以外は約2,800ヘクタール。山手線内に生産緑地は存在せず、東京23区で見ても世田谷区や練馬区といった外周部に集中しています。生産緑地が存在するエリアの特性から考えると、住宅地としてある程度の面積の売買が成立した場合、一戸建ての市場に影響が出る可能性があると言えます。

生産緑地の指定解除と宅地への転用

生産緑地の指定解除を希望する地主は、地元自治体に買い取りを申し出ることになりますが、財政難のため買い取る自治体は少ないと思われます。買い取ってもらえない場合、3カ月後に指定は解除となります。指定解除になれば宅地農地という扱いになるので、農地法4条に基づき、宅地への転用届を出します。これが認められれば、宅地として売却することができるようになるのです。

納税猶予が流通の足かせに

生産緑地の指定を解除して宅地にするにしても、納税猶予を受けていると市場への流通が難しくなります。生産緑地に抵当権が付いて国の担保となっているため、猶予分の納税をしなければ売却ができないからです。

東京都練馬区のケースから想定すると、3割強の農家が納税猶予を受けており、その額は1〜3億程度にもなります。納税猶予を受けている3割強の農家の土地の大半は、事実上流通しないと考えていいでしょう。なお、納税猶予を受けた相続人が死亡した場合にのみ、猶予されていた税金は免除となります。

生産緑地の指定解除後の選択肢を考える

指定解除された生産緑地は活用?それとも売却?

生産緑地の解除を受けた場合、その後の選択肢はいくつか考えられます。固定資産税が跳ね上がる土地を維持する手段として、賃貸住宅開発などの土地活用を選択する人もいることでしょう。指定解除後の生産緑地で土地活用を行う場合、一般的には郊外型のファミリー向け賃貸物件を建てるという選択が考えられますが、土地の場所や潜在ニーズの有無、競合物件の状況などで変わってくるので、一概には言えません。

土地を維持しようとせず、デベロッパーなどに売却する人も一定数いると考えられます。売買が成立するには、当然宅地として利益が見込まれるというデベロッパー側の判断が前提となるので、ロケーションや土地の形状などが重要視されるのは言うまでもありません。

生産緑地として更新するという選択

土地をそのまま子孫に残したいという願望は根強いものがあるので、生産緑地として更新する人も相当数いると思われます。

国は、農地の転用対策として「都市緑地法等の一部を改正する法律案」を2017年2月に閣議決定しました。その中で以下のように記しています。

  1. 生産緑地地区の一律500㎡の面積要件の緩和(一律500㎡から条例で引下げ可能に)
  2. 生産緑地地区内で直売所、農家レストラン等の設置を可能とすること
  3. 生産緑地の買取り申出が可能となる始期の延期(30年経過後は10年ごとに延長可)

この法律の目的は、生産緑地を維持しやすくすること。レストランなどの設置も可能になるので、生産緑地の状態のままでも収益を得やすくなります。

土地活用には専門家の視点が必要

賃貸経営による土地活用を行うにあたっては、リサーチ&マーケティングから始まり、事業計画、資金計画、施工、管理まで考慮すべき点が多岐にわたります。通常の宅地とは異なる点がある生産緑地についても、専門家と連携して最適な提案をさせていただきますので、ぜひ当社にご相談ください。

生産緑地の相続時の注意点

生産緑地の相続人が複数いる場合、トラブルとなることがあります。生産緑地の指定を解除して宅地化して売りたい相続人と、土地を持ち続けたい相続人の意見の調整がつかないといったケースです。

こういった事態にならないようにするため、相続が発生する前に相続人が話し合ってどうするかを決めておきましょう。将来売却するのであれば、売りやすいように区画整理計画などを進めておくのがベターです。

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清田 幸弘

ランドマーク税理士法人 代表社員 清田 幸弘 資産相続に悩む農家支援からスタートし、業界全体の底上げに注力

生産緑地指定の所有不動産の棚卸しを!

生産緑地解除の対象は、三大都市圏で約1万3000ヘクタールある生産緑地のうち、約8割に及びます。
生産緑地指定を解除した場合、相続税・贈与税の農地の納税猶予特例の確定事由に該当して納税しなければならなくなります。地主層への税負担がデメリットとして考えられ、すぐに宅地があふれかえる見通しでもありません。
生産緑地指定を受けている地主さんは、今後の所有あるいは活用のあり方を検討するタイミングです。生産緑地指定を継続するか、解除申請を行って不動産活用を図るか。
事業方針や人生設計、節税対策など様々な観点から、所有不動産の棚卸しを行ってみましょう。
ただし、2022年以降の税制がまだ固まっていないため、今後の改正等に注意していく必要があるでしょう。

都市部の農地の将来について
考える際の参考に

都市農地はこう変わる

『都市農地はこう変わる』
倉橋隆行・林愛州著
保立秀人監修

都市部の大量の農地(生産緑地)が優良宅地に生まれ変わろうとしている。するとどうなるか……。自らも不動産投資家である著者が知見のすべてを注ぎ込んで語る未来予想図。(1620円)

▸問合せ プラチナ出版
http://www.platinum-pub.co.jp/

農地法読本

『農地法読本』
宮崎直己著

農地法、政省令、通知、民法および行政法の基本知識を1冊に集約。改正民法(債権法)の成立を受け、関連する箇所には現行法の内容の解説とあわせて改正民法についても解説。(3240円)

▸問合せ 大成出版社
https://www.taisei-shuppan.co.jp/

世界の有名な建築物をご紹介します!

東京駅

東京駅

日本銀行などの設計者・辰野金吾が設計を担当し、大正3年(1914年)に建てられた東京駅。しかし、戦災によって南北のドームと屋根・内装を焼失し、戦後の復興工事で3階建だった駅舎は2階建になりました。2000年代に創建当初の姿に復原するための建替え工事が行われ、2012年に完成。往時の姿を再現しつつ、巨大地震にも耐える免震構造を採用しています。なお、戦後の復興工事で設置されたドーム天井裏に創建当初のレリーフの一部が残存しているのが見つかり、強化処理された石膏パーツが現在の東京駅のドームに取り付けられました。また、5・6番ホームでは開業当初の柱を見ることもできます。

生和コーポレーション編集部

「すべてはオーナー様のために」をテーマに、土地をお持ちの方の目線で、不動産の有効活用に関連する情報を発信しています。当社の豊富な実績をもとに、税理士や建築士、宅地建物取引士などの有資格者が監修した記事も多数掲載。賃貸マンションの建設・管理から相続や税金の話まで、幅広いコンテンツを公開中。

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生和コーポレーション株式会社
所在地

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1971年(昭和46年)4月16日
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