アパート経営は個人の資産形成において魅力的な手段ですが、事業拡大にともない税負担も大きくなるため「法人化したほうがいいのだろうか」と感じる方もいるでしょう。
法人化すると税負担が軽減されるなどのメリットがあるものの、コスト面でのデメリットも存在します。
相続にも関係するため、現在アパート経営をしている方はもちろん、これからアパート経営を始めようとしている方やサラリーマン大家の方も、知識として法人化のタイミングを把握しておくのが大切です。
本記事では、アパート経営を法人化するメリット・デメリットや法人化すべきタイミング、相続税対策のポイントについて解説します。
この記事の目次
アパート経営の法人化とは
そもそもアパート経営の法人化とは、会社を設立し、個人で所有していたアパートを会社名義で所有・運営することです。個人運営時は家賃を直接受け取りますが、法人化すると家賃は一度会社の管理下に入り、給料(役員報酬)として受け取ることになります。
また、法人化する形態は「不動産の管理会社を設立する方式」と、「不動産を所有する会社を設立する方式」の2種類があります。前者は管理業務のみを委託する方式、後者はアパートを会社へ売却して法人経営に切り替える方式です。
アパート経営を法人化すべきタイミング
アパート経営の法人化を検討すべきタイミングは、自身の所得状況や事業規模などによって異なります。
サラリーマン大家の場合、給与所得とアパート経営による不動産所得を合わせた課税所得が900万円を超えたときが、法人化の目安です。個人に課される所得税は、所得金額に比例して税率が高くなる累進課税制度が採用されており、5%から45%の7段階に分けられています。
【所得税と住民税の税率】
| 課税される所得金額 | 所得税率 | 住民税率 |
| 195万円以下 | 5% | 10% |
| 195万円超330万円以下 | 10% | 10% |
| 330万円超695万円以下 | 20% | 10% |
| 695万円超900万円以下 | 23% | 10% |
| 900万円超1,800万円以下 | 33% | 10% |
| 1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 10% |
| 4,000万円超 | 45% | 10% |
出典:所得税の税率とは|国税庁 確定申告書等作成コーナー
個人住民税|総務省
所得が900万円を超えると、所得税と住民税合わせて43%になります。しかし法人化することで下記のように税率が変わり、所得に対して課される税率は15.0%もしくは23.2%に抑えられるでしょう。
【法人税の税率】
| 区分 | 税率 | |
| 資本金1億円以下の法人 | 所得が800万円以下の部分 | 15.0% |
| 所得が800万円超の部分 | 23.2% | |
| 上記以外の法人 | 23.2% | |
一方、専業大家の場合は、不動産所得が330万円を超えたときが法人化の目安です。「所得税と住民税の税率」の表を見ると、所得が330万円を超えたときの税率は所得税と住民税合わせて30%です。一方で法人化した場合、サラリーマン大家と同じく所得に課される税率は15.0%もしくは23.2%になり、個人で運営するよりも税負担が軽減されます。
またどちらの場合も、売上が1,000万円を超えると2年後から消費税課税事業者となり、消費税の納税義務が生じます。この納税義務が生じたタイミングで法人化をするのもよいでしょう。会社を新たに設立すると年収の扱いがリセットされ、最長2年間は消費税の納付が免除される可能性があるためです。
アパート経営を法人化する6つのメリット
アパート経営を法人化するメリットは以下の6つです。
- ①節税につながる
- ②相続税対策になる
- ③経費の範囲が広がる
- ④相続資産としての分割がしやすい
- ⑤役員報酬によって所得を移転できる
- ⑥赤字の繰越期間が10年になる
アパート経営を法人化することで、税制上の優遇や経費の範囲拡大といったメリットを得られます。ここでは、アパート経営を法人化する6つのメリットについて解説します。
>関連記事はこちら:アパート経営(賃貸経営)のメリットとリスクとは? 生和コーポレーション
節税につながる
個人でアパートを経営する場合、家賃収入は自分の手もとに入ります。しかし先述したとおり、日本では累進課税制度を採用しているため、所得が増えるほど税負担も大きくなるでしょう。
一方でアパート経営を法人化すると、家賃収入は法人の収入となり法人税が課されます。所得が一定のライン(サラリーマン大家であれば900万円、専業大家であれば330万円)を超えていると、個人の所得税率よりも法人税率のほうが低くなるため、節税につながります。
相続税対策になる
個人がアパートを所有している状態でその所有者が亡くなった場合、相続税は不動産そのものに対して発生します。相続税も所得税と同じく累進課税制度を採用しているため、評価額が高いほど相続税も高額になるでしょう。
しかし法人化するとアパートは法人名義の資産となり、相続の対象が株式へと変わります。法人設立から3年が経過すれば、資産の評価額を個人経営と同じ相続税評価額にまで小さくできるため、アパートの株価が下がり、相続税対策につながります。
経費の範囲が広がる
法人は、個人よりも経費計上できる範囲が広がります。交際費や打ち合わせ時の飲食代のほか、自身や親族に対する役員報酬、退職金なども経費にできるため、法人税の負担を軽減できます。
相続資産としての分割がしやすい
相続人が複数いる場合、1つのアパートを分割して相続するのは現実的に困難ですが、法人化していれば相続資産は株式に変わります。仮に4人の相続人がいて株式が400株ある場合、100株ずつ平等に分けることが可能です。
そのため、遺産相続に関するトラブルを未然に防止できるでしょう。
役員報酬によって所得を移転できる
法人に家族を役員として登用すれば、役員報酬という形で所得を移転できます。個人の場合、生前に財産を子どもなどへ譲ろうとすると生前贈与となり、年間110万円を超える金額には贈与税が生じます。
一方で法人化していると役員報酬扱いになるため、贈与に該当しません。事業規模などを考慮した金額に設定する必要はあるものの、上限なく支払うことが可能です。
>関連記事はこちら:アパート贈与は節税対策になるの? 評価額の具体的な計算方法についても解説 生和コーポレーション
赤字の繰越期間が10年になる
個人の場合、繰越欠損金の繰越期間は3年間と定められていますが、法人になると10年間となります。繰越欠損金とは、赤字を翌年度以降に繰り越せる損金のことです。
例えば昨年度が80万円の赤字、翌年度が120万円の黒字だった場合、翌年度の損益を120-80万円で40万円の黒字にできます。赤字を黒字と相殺できなかった場合は翌年度にも繰り越せるため、長期にわたって節税効果が得られます。
アパート経営を法人化する5つのデメリット
アパート経営を法人化するデメリットは以下の5つです。
- ①会社設立時に一定のコストがかかる
- ②維持費が必要になる
- ③売却時の税率が高くなる可能性がある
- ④税務調査が入る確率が高まる
- ⑤小規模経営ではコスト倒れになる可能性がある
アパート経営の法人化はさまざまなメリットをもたらしますが、設立・運営時のコストや売却時の税率にも注意が必要です。法人化が自身の状況に最適なのかを判断するためにも、以下のデメリットを理解しておきましょう。
会社設立時に一定のコストがかかる
会社設立時には、さまざまな費用がかかります。例えば登録免許税や登記費用、収入印紙代、定款(会社の基本的なルールをまとめたもの)認証費用などです。
アパート経営の途中で法人成りする場合は不動産取得税と登録免許税がかかり、法務関係の書類作成を司法書士などに依頼する際はその報酬も追加で発生します。
一般的に株式会社であれば20~30万円程度、合同会社であれば10万円程度の初期費用が必要といわれています。
維持費が必要になる
法人としてアパートを運営していくには、法人住民税や社会保険料といった維持費も必要です。法人の会計業務は複雑なため税理士へ依頼するケースがほとんどですが、その場合は税理士への依頼料もかかります。
また、法人住民税の税額は法人税割と均等割の2つの方法で算出されますが、均等割はたとえ法人に赤字が出ていても毎年最低7万円支払わなければなりません。
なお、均等割での税率は自治体によっても異なります。
売却時の税率が高くなる可能性がある
個人の場合、アパートの売却にかかる税率は、以下のように所有期間によって変わります。所有期間が5年以下であれば合計39%、5年を超えると合計20%です。
| 不動産の所有期間(アパートを法人へ譲渡した年の1月1日時点から換算) | 所得税率 | 住民税率 |
| 5年以下 | 30% | 9% |
| 5年超 | 15% | 5% |
出典: No.3211 短期譲渡所得の税額の計算|国税庁
No.3208 長期譲渡所得の税額の計算|国税庁
一方で法人は、所有期間にかかわらず法人税の実効税率が適用されます。実効税率とは会社が実質的に負担する税率を指し、法人税以外に法人住民税や法人事業税などが含まれます。
この実効税率は30%程度が相場とされているため、アパートの所有期間が5年を超える場合は法人のほうが売却時の税率が高くなるでしょう。
税務調査を受ける確率が高まる
法人は、個人に比べて税務調査が入る可能性が高いといわれています。その理由は、個人よりも売上が大きく経費の範囲も広がる分、不適切な処理によるリスクが高まるためと考えられます。
調査時に不備があった場合は、追徴課税される可能性があるでしょう。
小規模経営ではコスト倒れになるおそれがある
アパート経営の法人化には、登録免許税や登記費用、法人住民税などさまざまな費用がかかります。そのためアパートの規模が小さいと、コスト倒れになるおそれがあるでしょう。
前述のように法人化のタイミングは、サラリーマン大家なら課税所得が900万円を超えたとき、専業大家なら年間不動産所得が330万円を超えたときが一つの目安です。これらの金額に満たない場合、法人化するのはまだ早いかもしれません。
土地活用のご相談、まずはお気軽に。相談から物件管理まで一貫したサポートを提供。
アパート経営を法人化する流れ
アパート経営を法人化するには、適切な手順を踏む必要があります。法人化までの基本的な流れや必要な手続きは以下のとおりです。
- 所有方式(建物のみ所有するか、建物・土地どちらも所有するか)を決める
- 会社形態(合同会社や株式会社など)を決める
- 定款を作成する
- 法人設立に必要な登記書類を作成する
- 法務局で設立登記を行なう
- 税務署で開業届を提出する
法人設立には設立登記申請書や就任承諾書、資本金の払込証明書などの書類が必要ですが、
これらの作成には専門知識が求められます。不安な方は、手続きの進め方を含め司法書士もしくは法務局へ相談しましょう。
アパート経営法人化による相続税対策のポイント
アパート経営の法人化は相続税対策としても有効な手段です。適切に法人化を進めれば、相続発生時にかかる税負担を大きく軽減できるでしょう。
相続税対策として法人化を進める際に押さえておきたいポイントは以下のとおりです。
- 推定相続人を株主または役員にする
- アパートを法人所有にする
- 資本金は1,000万円未満にしておく
- (建物のみを法人所有にする場合は)土地の無償返還に関する届出を提出する
アパート経営で家賃収入を得ているのはおもに建物部分のため、土地は個人名義のまま、建物のみを売却することがポイントです。アパート売却時、法人は個人に対して譲渡代金を支払うことになります。その際に帳簿上の未償却残高を使用すれば、個人側で発生する譲渡益を抑えつつ、譲渡所得税の負担を軽減できる可能性があります。
なお、未償却残高とは、アパート購入にかかった費用のうちいまだ減価償却されていない部分を指します。
アパート経営の法人化に関するよくある質問
アパート経営の法人化を検討するにあたり、さまざまな疑問点が出てくることもあるでしょう。ここでは、アパート経営の法人化に関するよくある質問にお答えします。
アパート経営の法人化に最低限必要な部屋数や収入は?
アパート経営の法人化において「○部屋なければならない」という明確な基準はありませんが、貸与できる部屋が10室以上ある場合は事業的規模とみなされることが多いため、法人化を検討するとよいでしょう。
収入面での法人化のタイミングは前述のとおりです。
サラリーマンでも法人化できる?勤務先への影響は?
サラリーマンでアパート経営の法人化をしたい場合は、まず勤務先の就業規則を確認してください。一般的に不動産投資は副業には該当しないとされていますが、事業規模が大きいと副業とみなされる可能性があります。
事業規模にあたるような場合は、勤務先に確認をとっておくのが無難です。会社によっては、申請することでアパート経営が認められるケースもあります。
株式会社と合同会社どちらを選んだほうがいい?
株式会社と合同会社には以下のような違いがあります。
| 株式会社 | 合同会社 | |
| 会社の出資者と経営者 | 分かれている | 同一 |
| 社会的信用力 | 高め | 株式会社より低め |
| 意思決定 | 株主総会 | 社員の過半数の同意 |
| 設立費用 | 20~30万円程度 | 10万円程度 |
| 決算公告義務 | 必須 | 必須ではない |
| 資金調達のしやすさ | しやすい | 株式会社よりも難しい |
株式会社は社会的信用が高いですが設立費用も高め、一方で合同会社は設立費用を抑えられるものの株式会社よりも資金調達が難しくなります。自身の法人化の目的や状況に応じて選びましょう。
不動産を個人名義から法人名義に変更する方法は?
不動産の名義を個人から法人へ移す方法は、以下の3パターンがあります。
- 法人にアパートを贈与する
- 法人がアパートを買い取る
- 資本金の代わりとして個人が法人にアパートを現物出資する
必要な手続きやかかるコストがそれぞれ異なるため、どの方法をとるべきか悩んだときは専門家へ相談しましょう。
生和コーポレーションはアパート経営のサポートが可能
アパート経営を成功させるには、長期的な資金計画やリスク管理が大切です。事業規模が大きくなってきたら、法人化を視野に入れてもよいでしょう。ただし、法人化は節税・相続税対策につながる一方、コスト面でのデメリットもあるため、慎重に行動する必要があります。
生和コーポレーションでは、土地に関するお悩みはもちろんアパート経営のサポートも可能です。経験豊富な専門家をご紹介いたしますので「もっと良い成果を生み出したい」「アパート経営がうまくいっていない」などの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ:メリット・デメリットを比較したうえでアパート経営の法人化を検討しよう
アパート経営の法人化は、節税・相続税対策につながる、経費の範囲が広がるなどのメリットがある一方、会社経営およびその維持にコストがかかるといったデメリットもあります。そのため、所得の金額や自身の状況を踏まえたうえで法人化を行なうべきか検討しましょう。
また、「アパート経営のサポートを受けたい」などお考えの場合には、生和コーポレーションにご相談ください。アパート経営を成功に導けるよう、経験豊富な専門家をご紹介したうえで、全力でサポートいたします。
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